塾長です。
みなさん、進学、進級おめでとうございます!
さて、ちょっと前まではインフルエンザやコロナが大流行しましたね。
3学期は学校を欠席する生徒がとても多かったです。
そんな中、とある高校3年生からこんな質問を受けました。
数Ⅲのeって何ですか?
近隣の公立高校は、高2の3学期ころから数Ⅲに入ります。
そこで関数の微分を習ったはずですが、そのころにインフルエンザで学校を休んでいたようです。
かわいそうに。
この数の説明をググって調べてみたのですが、意外と出てこない。
そこで説明しました。
ここにも備忘録として書いておきますので、忘れたらまた見てください。
高校で習うネイピア数
高校数学で初めて出てくる $e$ という文字は「ネイピア数」と呼ばれる数です。
円周率 $\pi$ と同じように小数点以下が無限に続くので文字 $e$ で表します。
今どきの高校生が、ネイピア数に初めて出会うのは数Bの統計です。
正規分布の確率密度関数として間接的に e が紹介されます。
標準正規分布 $ N(0, 1) $ に従う確率変数zの確率密度関数
$$ f(x) = \frac{1}{ \sqrt{2\pi} } e^{- \frac{z^2}{2} } $$
ただし数Bでは紹介だけで「ふーん、そういう数があるんだー」くらいです。
ネイピア数の性質には触れず、この関数を直接計算するわけでもなく、実際には正規分布表を見て問題を解くからです。
次にネイピア数を目にするのは、数Ⅲです。
導関数の単元で習います。
ネイピア数を定義せよ
ネイピア数は、対数関数の導関数を求めるときに、必要性に迫られて定義します。
(少なくとも数Ⅲではそういうモチベーションでの導入だったと思います)
導関数の定義に従って対数関数
$$ f(x) = log_e x (x>0) $$
の導関数を導きましょう.
ここで $e$ を何かしらの正の実数定数とします。
(この段階ではまだネイピア数を知りません。たまたま e という文字を使っただけ、という体裁です)
$$ \begin{eqnarray}
f'(x) &=& \lim_{h \to 0} \frac{ log_e (x+h) – log_e (x) }{ h } \\
&=& \lim_{h \to 0} \frac{ log_e ( \frac{x+h}{x} ) }{ h } \\
&=& \lim_{h \to 0} \frac{1}{h} log_e ( \frac{x+h}{x} ) \\
&=& \lim_{h \to 0} \frac{1}{h} log_e ( 1 + \frac{h}{x} ) \\
&=& \lim_{h \to 0} log_e ( 1 + \frac{h}{x} )^{ \frac{1}{h} } \\
\end{eqnarray} $$
ここから計算を進めるにあたり、$ x $ がカッコの中にあるのはやりずらいです。
そこで次のように置換しましょう。
$$ \frac{h}{x} = \frac{1}{t} $$
すなわち
$$ \frac{1}{h} = \frac{t}{x} $$
とすれば、
$$ h \to 0 のとき t \to \infty $$
ですから、
$$ \begin{eqnarray}
\lim_{h \to 0} log_e ( 1 + \frac{h}{x} )^{ \frac{1}{h} } &=& \lim_{t \to \infty} log_e ( 1 + \frac{1}{t} )^{ \frac{t}{x} } \\
&=& \lim_{t \to \infty} log_e ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t \frac{1}{x} } \\
&=& \lim_{t \to \infty} \frac{1}{x} log_e ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } \\
\end{eqnarray} $$
となります。
めでたくカッコの外に $ x $ を追い出せました。
あとは、
$$ \lim_{t \to \infty} log_e ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } $$
の値、もっと言えば、
$$ \lim_{t \to \infty} ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } $$
の値がどうなるか?
という問題だけに集中できます。
実は、この極限値は収束することが知られています(※)
そこで、あらためて次のように定義します。
$$ e \stackrel{\rm{def}}{\equiv} \lim_{t \to \infty} ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } $$
そして対数の底をこの $e$ だということにすれば、
$$ \begin{eqnarray}
\lim_{t \to \infty} \frac{1}{x} log_e ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } &=& \frac{1}{x} log_e e \\
&=& \frac{1}{x}
\end{eqnarray} $$
とできてキレイにまとまります。
計算の結論をまとめます。
$$ (log_e x)’ = \frac{1}{x} $$
$$ e \stackrel{\rm{def}}{\equiv} \lim_{t \to \infty} ( 1 + \frac{1}{t} )^{ t } $$
このように対数関数の導関数をキレイに表すことができる数がネイピア数なのでした。
※ 収束することの証明は大学数学になります。ただし「少なくとも3未満」であることは高校生でも二項定理を使えば示せるでしょう。
ネイピア数の性質
対数関数 $ y = log_e x$ と指数関数 $ y=e^x $ は逆関数の関係です。
ネイピア数を底とする対数関数の導関数がキレイになるであれば、指数関数もキレイになるかもしれません。
実はこれも以下のような公式が知られています。
$$ (e^x)’ = e^x $$
証明は難しいですが、高校数学では必須の公式です(※)。
これが分かると、底が $e$ でない対数関数や指数関数の導関数も計算できます。
$$ log_a x = \frac{ log_e x }{ log_e a} = \frac{ 1 }{ log_e a} log_e x $$
ですから、
$$ (log_a x)’= \frac{1}{ log_e a} \frac{ 1 }{ x } $$
です。
また指数関数 $ y=a^x$ の導関数についても
$$ a = e^k \Leftrightarrow k = log_e a $$
および
$$ a^x = (e^{k})^{x} = e^{kx} $$
を考えあわせれば、
$$ \begin{eqnarray}
(a^x)’ &=& (e^{kx})’ \\
&=& e^{kx} (kx)’ \\
&=& e^{kx} k \\
&=& e ^{kx} log_e a \\
&=& (e ^{k})^{x} log_e a \\
&=& a^{x} log_e a
\end{eqnarray} $$
と公式を導けます。
※ 逆に $ (a^x)’ = a^x $ となるような指数関数の底を $ e $ と定義する考えもあります。
導関数の定義に従って計算すると以下のように、その条件式が出て来ます。
$$ \begin{eqnarray}
(e^x)’ &=& \lim_{h \to 0} \frac{ a^{x+h} – a^x}{ h } \\
&=& \lim_{h \to 0} \frac{ a^{x} (a^h – 1) }{ h } \\
&=& \lim_{h \to 0} a^{x} \frac{ (a^h – 1) }{ h } \\
\end{eqnarray} $$
ここで $ (a^x)’ = a^x $ となるためには
$$ \lim_{h \to 0} \frac{ (a^h – 1) }{ h } = 1 $$
であることが必要。ここで逆説的ではありますが、
$$ \frac{ (a^h – 1) }{ h } = 1 $$
を変形してみましょう。両辺に $ h $ をかけて移項したりします。
$$ a^h – 1 = h $$
$$ a^h = 1 + h $$
$$ a = (1 + h)^{\frac{1}{h}} $$
となりますから、再び極限を取ることを考えて、
$$ e \stackrel{\rm{def}}{\equiv} \lim_{h \to 0} ( 1 + h )^{ \frac{1}{h} } $$
となりそうなことは直感的に理解できます。
さらに $ h = \frac{1}{t} $ とすれば最初と同じ定義になります。
少しだけ大学の数学へ
ネイピア数を底とした指数関数の性質を使えば、多くの「微分方程式」を解くことができます。
高校生にとって微分方程式は聞きなれない言葉かもしれません。
学校によっては積分法の発展として「主体的な学び」のネタとして、ちょっとだけ紹介する先生がいるかもしれませんが、せいぜいそのくらいでしょうか。
一方、国際高校でバカロレアの教育課程を学んでいる生徒たちは、高校3年生の数学で微分方程式を解く必要があります。
そんなわけで、少しだけ微分方程式の話をしておきます。
微分方程式とは、未知の関数とその導関数の関係を表す方程式のことです。
微分方程式の解は関数になります。
高校生の知識では、不定積分の計算がその1例と言えます。
たとえば微分方程式 $ y’=x^2 $ を満たす関数は、不定積分で $ y=\frac{1}{3}x^3+C $ と分かります。
微分方程式の視点で、あらためて次の式の意味を考えてみましょう。
$$ (e^x)’ = e^x $$
これは、
「ネイピア数を底とする指数関数は、微分しても積分しても式が変わらない!」
と言う意味です。そんな関数があるのですね。
そして上の式をyで書き換えた微分方程式
$$ y’=y $$
は「微分した後の式 y’ が元の式 y と同じで変わらないような関数を求めよ」と言う意味になります。
上の公式から、これを満たす式の1つ(微分方程式の解)が
$$ y = e^x $$
と言えるのです。
さらに一般には $C$ を定数として(以後も同様にCを定数とします)、
$$ y = C e^x $$
$$ y’ = C e^x $$
と言えます。
これが他の微分方程式を解く上で大きなヒントになります。
例えば、少しだけ変えて微分方程式
$$ y’=ay $$
を満たす関数は何でしょうか?
合成関数の微分を想像すれば、
$$ y=C e^{ax} $$
分かります。なぜなら
$$ y’ = (C e^{ax})’ = C e^{ax} (ax)’ = C e^{ax} a = ay $$
と確かめられるからです。さらにもう少し変えて
$$ y’=\frac{1}{x} y $$
ならばどうでしょう?
これも合成関数の微分の発想で、
$$ y=C e^{log_e x} $$
だろうと分かります。
$$ y’ = (C e^{log_e x})’ = C e^{log_e x} (log_e x)’ = C e^{log_e x} \frac{1}{x} = \frac{1}{x} y $$
と確かめられます。
$ \frac{1}{x} $ の部分をもう少し一般化して $ g(x) $ と表し、
$$ y’ = g(x) y $$
としておきます。さらに
$$ \int g(x) dx = G(x) $$
とすれば、きっとこの微分方程式 $ y’ = g(x) y $ を満たす関数は、
$$ y = C e^{G(x)} $$
なのだろうとわかってきます。そこで $ g(x) $ を見やすい形に変形した微分方程式
$$ \frac{y’}{y} = g(x) $$
すなわち
$$ \frac{1}{y} \frac{dx}{dy} = g(x) $$
の形を1つの解法パターンにしよう・・・
という具合に、微分方程式を解けるパターンを増やしていけます。
このように、ネイピア数はとても偉大なのでした。
最後に有名な関係式を1つ紹介して終わりましょう。
$$ e^{i \pi} = -1 $$
$ i $ は虚数単位 $ i^2 = -1 $ の $ i $ です。
数学で重要とされる2つの超越数 $ e, \pi $ および実数単位と虚数単位の $ 1,i $ そしてマイナスの符号だけが成る関係式です。
塾長が浪人生だったとき、予備校の数学の先生からいただいた本に、この式が載っていました。
とても衝撃を受けたのを覚えています。
ところが今の時代の教科書には、オイラーの公式
$$ e^{i \theta} = cos \theta + i sin \theta $$
がちゃんと載っていますね。
※ 一般に、微分方程式を解くのはとても難しいです。むしろ解けない方が普通です。解けない場合は方程式が分からないのですが、微分方程式のままコンピューターで計算してしまう、というアプローチが取れるときもあります。
あとがき
塾長が大学受験生だった頃は、物理の難問を解くときに微分方程式を少し解ける必要がありました。
その頃の教科書では、高校数学で簡単な微分方程式を少しだけ習いましたが、物理に出てくる微分方程式の方が難しかったです。
数学は数学で、高校で習わないような行列の固有値問題や、直交座標系を固有ベクトルを用いた座標系に変換するような問題が出題されていました。
何にせよ、塾長が高校生のころは「受験戦争」と言われたブラックな時代でした。
入試は「多すぎる受験生を切り落とすため」の意味あいがとても強く、高校で習っていないことが普通に出題されました。
予備校に通っていない生徒や、受験情報が希薄な田舎の生徒たちが、学校の勉強だけで難関大学へ挑戦するなど、ほとんど無理ゲーでした。
あれからウン十年か経ちまして・・・
かつて予備校で習ったような裏技や定理の多くが、今や教科書にきちんと載っています。
教科書が厚くなったのは大変ですが、予備校に行かなくても出題範囲を網羅できるという意味では、かなりフェアな時代になったと思います。
しかもインターネットで入試情報が簡単に調べられます。
予備校へ行かなくても、良い参考書や大学の出題傾向などを調べることができます。
ガチで一般受験に挑戦するにしても、自分の決意次第でできることが多く、とても羨ましい時代になったと思います。
あるいは、少子化で「受験戦争」という雰囲気は薄れ、受験らしい受験をせずとも、過半数の生徒たちは大学まで進学できるようになりました。
ガチで入試へ挑まなくても進学できてしまいます。
このような状況ですから、もっと伸び伸びと学んでほしいと思います。
たまたま今回は生徒からの質問をきっかけに数学の話を紹介しました。
しかし何の教科や何の分野であれ、自分が興味関心の強いことに関しては、教科書の範囲にとらわれず、つき進めて良いと思います。
そういうのが1つでも見つかれば、それはとても幸せなことでしょう。
進学実績
卒塾生(進路が確定するまで在籍していた生徒)が入学した学校の一覧です。
ちなみに合格実績だけであれば更に多岐・多数にわたります。生徒が入学しなかった学校名は公開しておりません。
国公立大学
名古屋大学、千葉大学、滋賀大学、愛知県立大学、鹿児島大学
私立大学
中央大学、南山大学、名城大学、中京大学、中部大学、愛知淑徳大学、椙山女学園大学、愛知大学、愛知学院大学、愛知東邦大学、愛知工業大学、同朋大学、帝京大学、藤田保健衛生大学、日本福祉大学
公立高校
菊里高校、名東高校、昭和高校、松陰高校、天白高校、愛知教育大学附属高校、名古屋西高校、熱田高校、緑高校、日進西高校、豊明高校、東郷高校、山田高校、鳴海高校、三好高校、惟信高校、日進高校、守山高校、愛知総合工科高校、愛知商業高校、名古屋商業高校、若宮商業高校、名古屋市工芸高校、桜台高校、名南工業高校、菰野高校(三重)
私立高校
愛知高校、中京大中京高校、愛工大名電高校、星城高校、東邦高校、桜花学園高校、東海学園高校、名経高蔵高校、栄徳高校、名古屋女子高校、中部第一高校、名古屋大谷高校、至学館高校、聖カピタニオ高校、享栄高校、菊華高校、黎明高校、愛知みずほ高校、豊田大谷高校、杜若高校、大同高校、愛産大工業高校、愛知工業高校、名古屋工業高校、黎明高校、岡崎城西高校、大垣日大高校
(番外編)学年1位または成績優秀者を輩出した高校
天白高校、日進西高校、愛工大名電高校、名古屋大谷高校
※ 成績優秀者・・・成績が学年トップクラスで、なおかつ卒業生代表などに選ばれた生徒
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